過去へ戻りたいと思うことはありますか?
現在の私はそれなりに幸せに生きてる筈なのに…そんな気持ちに戸惑います。
そんな風に思う自分に罪悪感も感じます。
昔からそうです。私は。
過去の自分は更なる過去の自分へと強い憧れを持っていました。
どこまで遡れば私は私に満足するのかしら。
秋という季節のせいか、少し物思いが深くなってるような気がします。
いかんいかん。
今日は少し、「人生」というものについて考えさせられる本をご紹介します。
「僕は金(きん)になる」です。
作者の桂望実先生の作品は、私自身は恐らくこれを読むのが初めてだと思うんですけど、 著書にはドラマ化された「県庁の星」もあるようですね。
装丁を見て分かるかと思うんですが、「将棋」が物語の中のひとつの軸になってます。
興味のない方にはもしかしたら手に取りにくい本かもしれませんが、あまり深く考えず読んでみて下さい。
主人公である「僕」の奥さんのように将棋をしてみたい気分になる筈。
私は小学校の頃、父に教えられ将棋をしていたことがあるのですが、久しぶりにしたくなって将棋アプリをインストールしてしまいました(笑)。
将棋を知らなくても「僕」のお姉さんが対局するシーンでは一緒にヒリヒリするような感覚を楽しめます。
この物語は3つの軸で構成されていて、ひとつは「将棋」
あとの2つは「家族」と「人生」です。
突然ですが、自分を完璧主義だと思いますか?
私は完璧主義です。
完璧主義だったと言った方がいいかな。
今ではだいぶ緩んできてます(笑)
少しだけ生きるのが楽になったような気がします。
「真面目で堅実で一般的な人生」を生きる「僕」は自分をその他大勢のように感じています。
おそらく私のように完璧主義な一面があり潔癖で慎重で臆病。
道から反れる事を恐れます。
一方、「僕」のお姉さんと父は真逆の道を行きます。
ルーズで大胆で無頓着でその日暮らしの人生。
お姉さんに関しては将棋という素晴らしい才能があるのにそれを活かすことをせず、活かす道を考えず本能の赴くままに将棋を指し、父と同じように怠惰な生活を送ります。
お姉さんと父は性格というより、資質の問題でいわゆるまっとうな人生を送ることを困難としています。
時系列で書かれていくこの物語は、「僕」が年を取るごとにそれぞれの人生や価値観を変化させていきます。
父は破天荒で怠惰な生活を送り続け
お姉さんはある出来事を境に堅実に生きることが分かるようになり
「僕」は年月を経て少し完璧じゃなくなる
破天荒な人生も真面目でその他大勢の人生も怠惰な人生も実直な人生も、何もかもがキラキラと輝く人生なんだと思わせてくれる作品。
人生に正解なんて一つもなくて、人はその人自身としてしか生きられず、それぞれが悩みやコンプレックスを持ち、何かかしらの才能を持ち、美しく生きている。
自分が人生を美しく生きている、なんて信じがたくないですか?
私自身はとてもそうは思えません。
水面下で足をばたつかせてる。
なんなら水面上でも羽をばたつかせ、その羽は薄汚れ所々抜けて見るも汚らしい。
それくらいに思ってます。
でも私の人生もまた美しいのかもしれない…
必死に生きることも必死に生きないことさえも、生きているだけでその人生は美しいのかもしれないと思わせてくれる作品です。
「家族」という小さなコミュニティについても同様。
「人生」や「家族」について肯定できなくて苦しんでる人はできれば読んで欲しい。
別にその2つを肯定できるようになるとかそんな威力はありません。
そういうことじゃなくて、この本を読んでる時だけはその2つを少しだけ甘やかした目で見られるような気がするから。
ちょっとだけ肩の力を抜くことができますよ。